肩の風呂敷には大事な大事な、ぽっくりをしまって・・・
子守奉公に出かけてからまだ一度も戻ったことの無い家に向かって
走り続けた・・。
(ぽっくりに付いている鈴をチロチロチロチロ・・・と鳴らしながら、
我が家へと走り続けるお春。)
「・・・おっかぁー・・・・・おっかぁぁぁー・・・・・!」
(やっと家に着き、おっかぁ・・と呟きながら戸の隙間から中を覗き込むお春。
家の中ではすっかりやつれた母親が・・・
ワラ打ちの夜なべ仕事を黙々と続けている。。
病で床に伏せっている父親の横で、まだ幼い弟たちが眠っている。)
走りに走って、やっとのことで家にたどり着いてみると・・・
お春には・・・「おっかぁ、今戻ったー。」とは、よう言えんかった。
毎年子守奉公の代金は、前金で貰っているのを・・・
お春も知っておったからじゃった・・・。
逃げ戻ってしまえば、そのお金は・・旦那の所へ戻さねばならない・・・。
おっかあの辛い顔を、お春には見ることが・・できんかった・・。
お春は・・・いつの間にか、さっき夢中で渡った・・・
村境の橋の上に、来ておった・・・。
家に帰りたくとも、帰れない・・・。
地主の家に戻れば、盗っ人扱いされる・・・。
まだ幼いお春には・・・どうしたらいいか、分からなくなってしもうた・・・。
(チロリンッ・・・チロリンッ・・・チロリンッ・・・チロリンッ・・・・
チリリリンッ!!・・・・・・)
そうして・・・・とうとう・・・
橋の上から川をめがけて・・・・身を、躍らせて・・・しもうた・・・。
「川辺のお春はど〜こへ行った♪
・・・おっかぁに貰った、ぽっく〜り持〜って♪
チロリン・・チロリン、鈴鳴らせ〜ぇ〜ぇ〜・・・♪
今泉の村へ、子守に行ったぁ〜〜・・・・♪
今でもこの橋を渡る時・・・・耳を澄ますと、
チロリーン、チロリーン・・・と、
ぽっくりの鈴の音が聞こえてくるということじゃ・・・。
そうして・・・そののちお春を哀れに思った村の人たちは・・・
この橋を、「チロリン橋」と名づけて・・・
働き者のお春を、偲んだと・・・いうことじゃ・・・。
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