子守奉公の仕事は苦しいもので、みんなが・・眠っている間に起きだして、

働き始めねばならんかった・・・。



(かまどで飯を炊いているお春を叱る、古株の女中)




女中「おはるー!?」

お春「はい・・・」


女中「そんなに釜の蓋を開けちゃー美味い飯が炊けんのじゃー!
   
   それから飯が炊けたら湯を沸かしておくんじゃぞ。」

お春「・・・はい・・」


女中「それから、板の間の雑巾がけ隅々まで丁寧になぁー。」

   それが済んだら水汲みじゃ。
   そうして旦那さんとおかみさんに、食事を差し上げるーんじゃ!」




(主人夫婦の部屋。二人の前にお春と、古株の女中が座っている。

 屋敷の主が茶碗に盛られた白いご飯を食べながら呟く。)





主人「今朝の飯はいつもより固いのぉ・・・
  
   ・・・でこの子が昨日から子守奉公に来たお春という娘かぁー・・?」



女中「はいさようで。

   十にもなってまーだ飯の炊き方も知らんで困ってー、おります。」



女将「お春、この姐さによーく仕事を・・仕込んでもらうんだねー。」


お春「はぃ・・・よく分かりました。。」







奉公人たちの朝飯は・・・一仕事も二仕事も終わってからじゃった。。。




(お春が冷たくなったほんの少ししかないご飯を食べていると、
ふいに赤ん坊が泣き出す。

それに気付いた古株の女中は、慌ててお春に言いつける)




女中「お春!あたい坊の、お守りじゃ早ぅー!
   
   ここのみんなのー、飯の後始末もお前の仕事じゃーぞぉ!
 
   その後は庭のー掃除じゃぁー!」






(竹ぼうきで庭の落ち葉の掃除をするお春・・)






毎日仕事は夜まできり無く続き・・・眠るのも、一番最後・・・。


一日が終わる頃にはもう・・へとへとになった。







それでもお春は、おっとうの病が治るまではと・・・

涙をこらえて頑張った。







(遠くの山を見つめながら、お春はぽつりと呟く・・・。)

「あの山の向こうで・・・おっかぁたちは今頃、
何してるだぁ・・?」








そうして一年が経ち・・二年が経ち・・・三年目のある日、

大変なことが持ち上がった・・・。







女将「二、三日前から仏壇の中に入れておいた、五両もの大金が
   何時の間にか・・・無くなっとる。

   盗んだ者は今のうちに、白状すれば・・・許してやろー。」







奉公人たちは一人一人順繰りに調べられたが・・・


誰一人、名乗り出る者はおらんかった・・・。






女将「お春!」

お春「はぃ・・!」


女将「おめぇの家はこの中でも、特に貧乏で・・子沢山じゃ。
 
   おっかぁ一人で、稼いでおるから・・・おめぇ
   金に困って盗んだんじゃろぅ・・!何処に隠したんじゃ?
   ・・・正直に白状すればー・・許してやる。」


お春「おかみさん、おらは何にも知りません・・・。
 
   お金なんか盗った憶え、ありません・・・!」


女将「しぶとい奴じゃ・・・。まあええ・・
   明日また旦那さんに、調べてもらうわ。」







その夜お春は、暗い部屋に戻ったが・・・涙がとめどなく、流れた。


涙が流れると後から後から・・・
三年間の方向の辛さが、思い浮かんできた・・・。






そうして辛さを思い浮かべる度に、幼いお春の目には・・

郷にいるおっかあの姿が浮かんできて・・・

帰りたい思いにかられて、たまらなくなってきた・・・。






(涙でぐしゃぐしゃになったお春の顔。搾り出すような声で、お春は呟く)

「おっかぁ・・・・・!」






その夜お春は・・みんなが寝静まるのを待って、
屋敷から抜け出した・・・。




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