(ナレーション:市原悦子さん)






昔々・・・・



世間から忘れられてしまったような、貧しい山寺に・・・

大変年をとった和尚さんが住んでおりました・・・。




さみしい暮らしなので・・・これも大変年をとったトラ猫を、

我が子のように可愛がって飼っておりました・・・。




(縁側に寝ているトラ猫に餌をやる和尚さん。)

和尚「お食べ・・・・」


和尚「それにしても今日はいい天気じゃのう・・・・ん?」



(トラ猫は和尚さんの膝によいしょと乗ってくると気持ちよさそうに
ゴロゴロとのどを鳴らす。)


和尚「そうかそうか、膝があったかくてええか♪よしよし・・・」







何年もの間、訪れる人も無く・・・

蓄えてあった食べ物や、野の草を雑炊にしては食べ・・・

細々と暮らしておりました。






(夏の夕暮れ。

 ヒグラシが鳴いた後、遠くから村の祭囃子が聞こえてくる・・・・)


和尚「今年は特に暑さがこたえるのぅ・・・・」






(そして、ある秋の日の朝。

 和尚さんはいつものように雑炊を作り、トラ猫に食べさせようと持ってくる。)





和尚「ふーっ、ふーっ・・・・さぁ、お食べ。」







秋も深まった頃・・・・とうとう食べ物も底をつき・・・

夏の暑さがこたえたのか和尚さんは、うつらうつらと居眠りをはじめました。







??「和尚さま・・・和尚さまぁー・・・・」



和尚さん「・・んー?・・・・誰もおらん・・・。わしの空耳か・・・」



トラ「和尚さま・・・」


和尚さん「・・・・ん?・・・トラよ、お前が喋ったのか?

      ・・・・こりゃぁ・・・驚いた・・・!」



トラ「ずいぶん長いことお世話になって、
   
   化けるような歳になってしまいました・・。
   
   何とか恩返しを、したいと思って・・・」





和尚「トラや・・・

   わしとお前はもう何も考えんで、ここにこうしておればええーんじゃ。」



トラ「和尚さまぁ、おらはこの頃いい事を聞き込んだで・・・

   この寺をもういっぺん繁盛させて・・・


   和尚さまにも安楽させたいと思うだ。。


   それはなぁ・・・

    近いうちに長者どんの一人娘が、死ぬ。

    その葬式の時に・・・






トラは、何やら和尚さんにぼそぼそ話していましたが、

そのうちに一声鳴いて・・・去っていきました。



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