そうこうしているうちに、猫の言葉どおりに・・・
長者どんの一人娘が病気で、死んでしまいました。
可愛い一人娘のこととて、長者どんはあらゆる寺の和尚さんを招いて、葬式をしました。
でも、山寺の和尚さんだけは・・・誰からも忘れられていて、招かれはしませんでした。
ともかくも・・・葬式は誰も見たこともないような、立派なものでありました。
(風がヒュゥゥゥゥゥと吹いてくる)
と・・ 行列が墓の手前に差し掛かった時、 みるみる空の色が変わり・・・ 風が吹き始めました。。。 |
その時でした!
どういう訳か、立派に飾り付けられたお棺が、
しずしずと天へ吊り上がっていって・・・
高い高い中空に、かかってしまったのでした。
長者「!?何という事じゃ!誰でもいいから早ぅ、降ろしてやってくれ!」
坊さん「拙僧が、念じてしんぜよう!」
坊さん「いやワシがやる!」
坊さん「・・・いやいやっ、ワシがやるぅ!」
長者「何方でも結構です!とにかく早ぅ、降ろしてやって下せぇ!」
「なむあーみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ・・・」
(一斉に念仏を唱え始める坊さんたちだったが、棺はピクリともしない。)
長者「それそれ早ぅ、何をしとるんじゃ!降ろしてやってくれ!」
「なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ・・・」
長者「早ぅお棺を降ろしてくれ!降ろしてくれた者には一年間の年貢米もやるし、
望みによっては門も、鐘つき堂も何でも寄進して、やるぞぉっ!」
「なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ・・・」
使用人「駄目じゃ、こんだけの坊さんが祈っとるのに、ピクリとも・・動かん!」
(長者の奥さんはたまらず泣き出してしまう)
長者「こりゃ、どうしたことじゃ・・誰か他に、和尚さんは残っとらんのかぁー・・・!?」
使用人「あのぅ・・山寺の年寄り和尚が一人、残っておりますが・・・
しかし・・連れて来ても、役には立ちますめぇ・・。」
長者「何でもいいから・・とにかくその和尚さんを、呼んで来てくれぇ・・・!」
使用人「へぃっ!」
相変わらずお坊さんたちのお経は、続いておりましたが・・・
お棺は中空に留まったまま・・・ピクリとも動きませんでした。
使用人「長者さま、ただいま連れて参りました!」
長者「おおっお連れしたか!
(と、振り向いて山寺の和尚さんのみすぼらしい身なりを見た瞬間)
何じゃ、これは・・?」
(山寺の和尚さんは真っ黒い空に浮かぶ棺を見上げて呟く)
和尚「あれまぁー・・トラの言うた通りじゃ。」
長者「あれが最後の和尚さんー・・・?」
使用人「・・はい。」
長者「こりゃ駄目じゃぁ・・」
(長者は絶望し、奥さんは一層声を大きくして泣きわめく)
和尚「なんまいだぶなんまいだーぶなんまいだーぶなんまいだーぶなんまいだーぶ・・・・」
大勢の坊さんたちは、わしらがこれだけ祈って駄目だったものが・・・こんな山寺のもうろく和尚が
いくら拝んだってお棺を降ろせる訳が無いと、せせら笑っておりました。
坊さん「へへへへへへ・・・(笑)」
坊さん「駄目じゃ駄目じゃ(笑)」
坊さん「はっはっはっはっ(笑)」
(長者はがっくりと肩を落とし、奥さんは泣き続ける。
が、その時・・・)