(ナレーション:常田富士夫さん)





(竹林に覆われて真っ暗な道を、一人の旅の男が歩いている・・・

と、その足音に混じってピタッ・・・ピタッと何者かの足音が聞こえてくる。)




ザッ・・ザッ・・ザッ・・ザッ・・ザッ・・・・

ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・・




(ゴクリ、と生唾を飲み込み、そーっと振り返る旅の男)

「誰じゃぁ・・??」




むかーし昔。。

愛知県の百々女鬼(どどめき)という所は、ちょっとした峠でなぁ。


水車がゴットンゴットンと、回っている茶屋があって、

犬山への行き帰りの旅人は、必ず一服するところじゃったそうな。


その茶屋へ・・出るまでの道に、竹やぶですっかり覆われて

昼でも暗くて、薄気味悪ーい道があった。




(男は目を凝らしてみたが誰もいない・・・)



「誰もおりゃせんがな・・・」




(そう呟いて歩き出すと、また・・・自分の足音に混じって誰かの足音が聞こえてくる。)



ザッ・・ザッ・・ザッ・・ザッ・・ザッ・・・

ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・




この道を通る旅人は・・・ドッキンドッキン、

破裂しそうな自分の心臓の音を聞きながら・・・


途中で後ろを振り返り振り返り、夢中で通って行ったそうな。







それと言うのも・・・



この道は、誰が通ってもピタピタピタピタ・・・後をつけて来るような

足音が聞こえてきて・・・

旅人は恐ろしゅうなってはあはあ、はあはあ、はあはあ言いながら

もつれるような足取りで、峠の茶屋へと・・辿り着いたのじゃった。





(茶店で一人の旅の商人が休んでいる。

竹やぶを抜け、一目散に駆け寄る男。)


男「ハァハァハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

  誰かおらの後、追ってくるんや!」


商人「お前さんもかー?

    おらもさっき通ってきてな、誰かに後をつけられたんや。

    全く、薄気味悪い竹やぶで・・・


    ホンマー、まぁ茶でも飲んで気ー落ち着けや。


    婆さん婆ーさんお客さんやでー!」



お婆さん「へぇ・・・」

(茶店のお婆さんがお茶を持ってくる)



商人「婆さんや、用があったらまた呼ぶからな。」


お婆さん「はぁ・・・・」

(お婆さんはニコニコしながら、茶屋のすぐ目の前にある

お地蔵さんの前に行って手を合わせる)


お婆さん「あー。」


(それを見ていた商人が、今来たばかりの男に囁く)


商人「おいおい・・・。


   竹やぶも気味悪ぃが・・・あの婆さんも気味悪ぃと・・・思わへんか?

   何にも喋らんとニコニコして・・・。


   村の人の話だとな、暇さえあれば、ああしてー・・・

   花や団子を供えたりして拝んどるそうじゃ。」

男「おっ、おら・・・先を急ぐで、そろそろ出かけるぞー」

旅人「お、おらもそうするー。
    
    婆さん、お茶代ここ置いてくでー。」

男「ご馳走さーん!」


(逃げるように茶屋を後にする二人を見て、薄ら笑いを浮かべるお婆さん)

お婆さん「へへ・・」





その後も、竹やぶの道は昼でも夜でも・・

何時誰が通っても、必ずピタピタピタピタ・・・

後をつけてくる足音がしたそうじゃ。。。






(旅の夫婦が竹やぶを歩いている。

・・・と、やはり何者かの足音が聞こえてくる。

不安げに旦那さんに尋ねる奥さん)



奥さん「あんたぁー、さっきから誰か後ろをついてくるよぉ」

旦那さん「あー分かっとる・・・!」

奥さん「分かってるならそんなに震えないで、何とかしておくれなー」

旦那さん「後ろに誰かおるなら、何とかするがよぉ・・・いねぇんだよ、後ろに誰も・・・!」



(ピタッピタッ・・・と足音は止む気配が無い)

奥さん「どーいう事なんだい?誰もいないのに足音がするってのは・・?」

旦那さん「ば、ばっ、化け物ってことじゃろ・・・?」

奥さん「化け物ぉ・・・?


    ・・・・いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



(絶叫しながら全速力で走り去る奥さん。旦那さんは驚いて腰を抜かしてしまう)

旦那さん「おーい、待ってくれ!おらを、置いてかんでくれ!!
       
      おーい!・・・おーい!!」







そんな・・・ある日のこと。


旅人達の、恐ろしがる様子を見かねた・・・

村の若い者が集まって・・



竹やぶの道で、人々を怖がらせている・・・化け物の正体を

突き止めようと、相談を・・したのじゃった。





若者「よーし、今夜じゃ!

   今夜おらが、化け物の正体を見届けてやる!


   婆さん、景気づけにー・・・酒を1杯、くれやー!」






そうして、その夜、選ばれた村の若者は、山刀を腰にさして・・・

一人で竹やぶの道を歩いていった。。。






「化け物め、出るなら出て来い。退治してやる・・・!」




若者が・・・暫く歩いて、耳を澄ましてみると・・・



ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・ピタッ・・・・




「出たな、化け物。。」




若者がとっさに振り返り、後ろを照らしてみたが・・・


何の姿も見えなかった。。。



(しかも勢いよく振り返りすぎて、提灯に火が燃え移ってしまう。。

若者は仕方なく提灯を投げ捨てる。)




そうして、再び真っ暗な道を歩き出すと・・

また後ろから、ピタピタピタピタ、足音がついてきた・・・。





そうして・・・

その足音はどんどん、若者に近づいてくる様子じゃった・・・。





そのうち、首筋に何やら生臭い息がかかるような感じがした。




流石の若者も・・恐ろしくなって、

正体を確かめるゆとりもなく、

振り向きざま・・・・





若者「ええぇぇぇぇぇぃっっ!!!」






確かに・・・手応えはあった。



その夜、若者は訳の分からぬまま、逃げるように村まで帰った。








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