ところが翌朝、茶店の前は大騒ぎになっておった。
何と・・・
茶屋の前の地蔵さんが、胸の真ん中で2つに切られておったのじゃった。
(お地蔵さんを前にして茶店の婆さんが語りだす。)
お婆さん「お若い衆・・・
おらずっとずっと昔から知っとって黙っとったことがあるんじゃ。
ありゃーおらが四つになるかならんかの頃じゃったのー。
この茶屋をおらの母さ(かかさ)が始めた頃じゃ。。
その母さがある時病気で倒れてのぅ・・・・
おらどうしても町まで、医者を呼びに行かにゃあならんかった。
町まで行くにゃぁこの竹やぶの道を通らにゃー、行けん。
おら恐ろしゅうて恐ろしゅうてのー。
1人で泣きながら、それでも我慢して走ったんじゃ。
・・・そん時じゃ。
あれほど暗くて恐ろしかった竹やぶが急に、ぽわぁっと明るくなった。
そりゃあ綺麗なもんじゃった。
そしておらが何気なく後ろを見ると・・・
お地蔵様が後からついて来てくれてるんじゃ。
おらぁもう嬉しくなってのぉ。
無事に町まで行って医者を連れて来たんじゃよ。
おら・・この話を村の人たちに話したが、
小さな子供の言う事じゃで誰も信じてはくれんかった。
・・・・それ以来おら、黙っとることにしたんじゃー。」
若者「ゆうべ・・・おらが夢中で切ったのは、
この地蔵さんじゃったのかー。」
若者「今までのことは・・・こりゃこの地蔵さまが毎日毎日
旅人の後をついて歩いて、守って下さっておったんじゃのー。」
若者「えらいことをしてしもうたー。
大事にしてた地蔵さんに、すまんことをしてしもうたー。」
婆さん「いや、お地蔵さんにゃおらが詫びといてやるで、うん。
それにしてものぅお地蔵さんのホントの姿を見られるのは・・・
考えることも繕うこともまだ知らねぇ・・・
小さな子供のうちだけかも知れんのー。
なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ・・・。」
そうして・・その後も、竹やぶの道を通ると
“ピタピタピタピタ”と後ろから足音がついて来たというが・・・
もう・・・誰1人として、怖がる者はいなかったと・・・いうことじゃ。
今でも、百々女鬼の切られ地蔵様は、切られたまんまで・・・
ぽつんと峠の上に、立っていらっしゃるということじゃ。
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